馬は人の鏡なんです。

与那国空港に降り立ち、島の西側へ車を走らせると、やがて太陽の光を受けてきらめくナーマ浜が現れる。その白砂の浜で、人々と馬が互いに体を寄せ合い戯れているのが見えた。体高はわずか120cm程だろうか。潮風になびくたてがみ、人を包み込むような瞳、そして警戒心を感じさせないゆったりとした佇まい。それがこの島の希少な在来馬「与那国馬」の第一印象だ。

町の天然記念物に指定されている与那国馬の保存と活用を目的としたNPO(民間非営利団体)『ヨナグニウマふれあい広場』の佐野恵子さんは、もともと県外の動物園で馬に携わる仕事をしていたそうだ。働くうちに、次第にこどもの乗馬や在来馬の活用などに興味が広がり、この島へやって来たという。最初はふれあい広場でファームステイ(ボランティア)を体験した。1年の滞在予定だったのに、気付けば島生活ももう6年目。今はインストラクターとして毎日馬とふれあっている。「自然をダイレクトに感じることができるこの島の暮らしが私に合っていたんでしょうね。ふれあい広場では与那国馬の林間放牧をしているため、馬たちは皆豊かな自然に護られながらのびのびと成長するんです」試しに馬の首筋を撫でてみると、まるでなめらかなベルベットのように心地よい感触が手のひらを包んだ。ふれあい広場で大切に育てられている証拠だ。真っ黒に濡れた瞳、パカパカと鳴るかわいい蹄(ひづめ)、毛並みの良い体躯、全身からあたたかないのちの鼓動を感じることができる。

ふれあい広場では、牧場内の乗馬だけではなく、島の自然を満喫できる外乗メニューが豊富なのが特徴だ。なかでも人気なのが、サマーシーズンの目玉である「海馬遊び」。馬に乗って浜を歩き、そのまま海へザブ〜ン! 浅瀬で馬と一緒に遊ぶことができる。「尻尾につかまると、馬が引っ張って運んでくれますよ。これは温厚な与那国馬だからこそできる遊び。潮風を浴び、波を感じながらふれあうことで互いの距離が縮まり、いつのまにか馬と“友達”になれるんです」透き通る水面に浮かび、水しぶきをあげながら裸馬と一緒に泳ぎを楽しむ…。そんな非現実的な空間が、この島では日常の一部として成り立っている。

日本で近年注目を集めている“ホースセラピー”は、文字通り馬を介して「癒し」を感じる体験のこと。ふれあい広場でもそのエッセンスを取り入れている。「最初は緊張して顔がこわばっていたこどもが、馬に乗った途端に大きな声で笑うのが嬉しくて。与那国馬は体が小さくて目線が低いので、ビジュアル的にも癒し効果があるんじゃないかな。それに、ここの馬たちはスタッフたちのあふれる愛情を受けて育つせいか、人への接し方がやさしいんです」その光景を思い出したのか、誇らしげな顔で佐野さんが笑った。

また、ふれあい広場では毎週日曜日に島の人たちを対象に開放日を設けている。近所に住むこどもから大人まで、多くの人が集まり、馬に乗ってゲームをしたり競争をする様子は見ているだけで爽快だ。「ここにいる馬は、ふれあい広場という“家族”の一員。一頭ずつ名前が付いているし、性格もバラエティ豊か。与那国馬を通じてこどもたちが変化していく様は、側で見ていても本当にこころを動かされます」佐野さんの言う通り、広場ではこどもたちが友達と遊ぶように与那国馬と戯れている。広場の隅で、馬の顔に自分の顔を近付ける女の子がいた。「アルマ、一緒に走ろうね」その声に頷くように、馬はじっと女の子をみつめる。「馬は人の鏡なんです。察する力、受け入れる力が強いので、乗る人が怖がると馬も怖がるし、愛情をかけるとその倍返してくれる。日々接する私たちスタッフも馬から教えてもらうことがたくさんあります」佐野さんの言葉に思わず頷いた程、それはあまりに自然なふれあいの光景だった。

島には数カ所の牧場があり、いたるところで与那国馬が悠々
と草を食んでいる。小さな体で大きな大地を往く何頭もの影。
人と馬の一番いい関係が、与那国島には今もなお、息づいている。

NPOヨナグニウマふれあい広場

住所/沖縄県八重山郡与那国町与那国4022
Tel/090-1941-4758・予約専用 (8:00〜21:00) Fax/0980-87-2911
http://www.yonaguniuma.com/yonagunitop.html
※詳しい情報はHPを参照し、お問い合わせください

プランメニュー 一例 ● 海馬遊び(約45分)/5,000円
● ふれあい&ちょこっと乗馬(約30分)/2,000円
● 浜遊び満喫コース(3〜3.5時間)/15,000円
● 森を感じて浜を歩くコース(2.5〜3時間)/13,000円

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