ゆっくりと島の料理を味わってもらいたい

夕焼けがあたりの浜を染める頃、お店のあかりがともり始める。島の西側・久部良漁港の近くにある『島料理 海響(いすん)』は、地元の人たちが集う居酒屋だ。店内は明るく、こじんまりとしていて居心地が良い。浮き玉やサンゴ、貝殻など、与那国の美しい海を思わせる装飾が印象的だ。新鮮で美味しい海の幸が並んだテーブルでは、観光客・地元の人が入り混ざって和やかなひとときを過ごしている。

今から20年程前に撮影され、最近再上映とDVD化を果たした「老人と海」という有名なドキュメンタリー映画をご存知だろうか。映画の舞台は、ここ与那国の久部良。荒々しく波立つ海上で一人、サバニに乗ってカジキ漁をしている老漁師姿を追ったそのドキュメンタリーは、与那国におけるカジキ漁の圧倒的な迫力と真っ直ぐな人間の生き様を見事に描き出している。この映画の主人公として観る者を魅了した糸数繁さんは、『島料理 海響(いすん)』の店主、具志堅学子さんの祖父にあたる。「祖父も父も漁師だったので、幼い頃から海は常に身近なものでした。でも、島に住む者にとって海は男の世界。私は一緒に海に出たことはないですが、祖父や父が船を出す姿はよく覚えていますよ」と言う具志堅さん。祖父・繁さんについて聞くと、昔の光景をたぐり寄せるようにして一言ひとこと言葉を選んで話してくれた。「あの映画では漁師としての姿が強く焼き付くと思いますが、私にとってはいつも優しい“おじいちゃん”でしたね。80を過ぎてもサバニで漁に出て、島のみんなから愛されていたように思います」20年前の映画公開直後、カジキ漁の途中に他界した繁さんは、最期まで漁師として生き続けた。久部良にある多目的集会施設には、今も繁さんが乗っていたサバニが展示されている。誠実に真っ直ぐに漁に人生を捧げた繁さんは、まさに島の誇りそのものだ。「お店の天井にかかっている網も、実際に祖父が使っていたものなんですよ」と具志堅さんが嬉しそうに話してくれた。

『島料理 海響』のメニューには、やはり海の幸が多い。アカマチ(ハマダイ )やシロマチ(ナガサキフエダイ)、クチナギ(イソフエフキ)など、その日あがった新鮮な近海魚を刺身や煮付けなど、一番美味しい調理法で味わえるのが特徴だ。釣った魚の持ち込み調理がOKというのも、釣り好きがたくさん集まるこの島ならでは。もちろん、魚だけではなく島の野菜をふんだんに用いたヘルシーな料理もたくさん揃っている。なかでも「山菜サラダ」は絶品。オオビカンジュンという島に自生しているシダ植物を用いているのだが、ぬるっとした滑らかな口当たりがとても個性的。植物自体にクセがないので、味付けを工夫することでたくさん食べられる。また、おすすめなのがお店オリジナルの2種類の調味料。「すけ〜のクース」は島唐辛子独特のピリッとした美味しさが特徴。「海風響 さんすの葉」は、香り高い山椒に島唐辛子を配合。どちらも焼き魚や肉料理につけたり、汁物の適量加えるだけで、料理のアクセントとなり、美味しさをグッと引き立てるから不思議だ。販売もしているので、お土産としてもおすすめだ。

「お酒を飲みながら、ゆっくりと島の料理を味わってもらいたいですね〜」と料理を運びながら、にこやかな顔で具志堅さんが言う。アットホームな店内は、ついつい長居をしてしまいそうな雰囲気だ。予約をすれば珍しいヤシガニ料理も食べられるそう。お店は居酒屋らしく多彩なメニューが用意されているが、せっかく足を運んだのなら、島の外ではなかなか口にすることがない美味しい旬の鮮魚や島の野菜をぜひ味わってもらいたい。どなんとぅ(与那国の人)たちが愛してやまない海の幸、そして貴重な山の幸。与那国の土地の恵みをふんだんに用いた料理は、どれも一口食べると、何とも言えない「口福」感に包まれる。

島料理 海響(いすん)

住所/沖縄県八重山郡与那国町与那国4022-6
Tel/0980-87-2158
営業時間/(昼)11:30~14:00/(夜)18:00~23:00
定休日/水曜日

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