ゆっくりと島の料理を味わってもらいたい

島の北東にあるナンタ浜の近くの集落に、小さな看板が出ている昔ながらの民家があった。敷地の中に入ってみると、はた織り機と織物がたくさん並んでいる。ここは『花ゆり工房』という可愛らしい名前がついた与那国織専門の工房だ。織り手が機の前に座り、射し込む太陽の光も一緒に織り込むように糸を一つのかたちに昇華していく。カタン…カタン…という規則的な音が響く工房内には、島と同じゆるやかな時間が流れていた。店主の前外間(まえほかま)百合子さんは生粋のどなんとぅ(与那国の人)。昔から織物をしていたんですか?と尋ねると意外な答えが返ってきた。「与那国織を学び、織りはじめたのは今から10年前。比較的最近なんですよ。知り合いの方に誘われ、“与那国町伝統工芸館”で講習を受けたのが最初でした」織り子を養成するための講座を集中的に1年程学び、後は島の先輩方に教わりながら自ら経験を積んできた。学べば学ぶ程、織れば織るだけ、前外間さんは与那国織の魅力に取り付かれたという。

与那国で受け継がれてきた織物は大きく分けて4つ。なかでも一番知られているのが「与那国花織(はなおり)」ではないだろうか。平織地に色糸を織り込む花織は、その名の通り花の模様が浮き上がるように見えるのが特徴。図案も様々な種類があり、例えば点が4つのものは“ドゥチン花”、5つのものは“イチチン花”と与那国ならではの言葉で呼び表されている。表面はもちろん、裏面も美しいのが花織の魅力の一つと言われている。また「与那国ドゥタティ」は、シンプルでさっぱりとした佇まい。細かいギンガムチェックのような模様で、まるで洋服のテキスタイルのようなモダンな印象を与える。ちなみにドゥタティとは“4枚仕立て”という意味。4枚の布合わせで完成する気軽な日常着として古来より島の人たちに親しまれて来た。その他にも草木染めの糸を巧みに織り込んだ「与那国シダティ」や、夫を示すミトゥダ絣の模様が入った帯「与那国カガンヌブー」などがあり、他の地域にはない独自の伝統を繋いできた。

「与那国の織物は草木染めが主役。もともとフクギやガジュマル、シャリンバイなど島の植物を効果的に用いて染められてきました。今も天然の染料を使うように心がけています。やっぱり化学染料に比べて風合いが優しく、品の良い染め上がりになりますから」織物に手を当てて、にっこり笑う前外間さん。「島では織物づくりの最初から最後まで一人で行うのが基本です。本格的に織りを志せば、材料集めはもちろん、染色、図案、織り、整経などの各工程が一通りできるようになりますよ」織物が仕上がるまでの工程を聞いていると、それはまるで島の女性たちが代々受け継ぎながら成してきた一大事業にも思える。目と手をしっかり使い、丁寧にコツコツと、そして何より楽しみながら。与那国の女性たちは昔から、島の植物で糸を染め、日夜織り機の前に座ってきたのだろう。細やかな優しさと真摯な思いを丁寧に紡ぎ、織り込んでいく姿が目に浮かぶようだ。「落ち着いて、ゆっくり丁寧に。と自分に言い聞かせながら織るようにしています。イライラして気持ちが波立っていると、はたがいうことをきかずに糸が切れてしまうこともあるんですよ」はた織り機は“自分”を映す鏡。フラットな状態で向き合わないと、良い織物は仕上がらないのだそうだ。

『花ゆり工房』では、商品の販売はもちろん、織物体験も行っている。ストラップやコースター、ミサンガなどの織物は初心者でも気軽にチャレンジできるのが嬉しい。「小物類でしたら、お子さんでも大丈夫ですよ」と前外間さんは言う。草木染体験は、この島の豊かな自然のエッセンスを体感したい人におすすめだ。「与那国に足を運んでくださった方が、島の中で“与那国織”と出会う。その姿を見ると嬉しい気持ちでいっぱいになります」織物体験に心惹かれ、滞在中に何度も足を運ぶ観光客もいるのだとか。人との出会いを縦糸に、島の暮らしを横糸にして織り上げられる前外間さんの与那国織は、これからもきっと変わらない魅力を放ち続けることだろう。

花ゆり工房

住所/沖縄県八重山郡与那国町与那国53
Tel/ 0980-87-3387
開館時間/9:00~18:00 ※12:00〜13:00は昼休
定休日/不定休

[体験プラン]
*ストラップ(約20分/800円)
*コースター(約40分/1,000円)
*ミサンガ(1,000円)
*草木染(1時間30分〜2時間/1,200円) etc…

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